pierce my heart (spring story 2022)

pierce my heart 30 rui side

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久しぶりに一時帰国。牧野の顔も見たかったけれど、京都までいく時間はなかった。珍しく総二郎から誘われたのは、ちょうど時間が空いた夜だった。京都での仕事も多い総二郎と、牧野は頻繁に会っているようだった。

「牧野、見合いするみたいだぞ」
グラスが出されてすぐのひと言に、手が止まる。見合いなんて俺は全く聞いていない。

「お前、何やってんの?」
呆れたような口調で、言いたいことは分かる。だけど、牧野は司との時に道明寺家のせいで色々辛そうだったし、それを知ってる俺が何も考えずに友達以上なんて望めないし、望まない。

そんなことを思うだけで沈黙しているのをどう受け取ったのか、更に説教じみた話が続く。
「相手は上司の紹介らしくて、向こうが是非にって言ってて断れないから、とりあえず行くって言ってたぞ。あいつ押しに弱いんだから、しっかり掴まえとかないと、また持ってかれるぞ。何年そんなことやってんだよ。お前ら付き合ってもいないって?マジかよ」
馬鹿にするような目つきで言われてムカつくけれど、その通りだから何も言えない。ただただグラスを口につける。

「ホントに何やってんだよ。もう、好きなら押し倒しちまえ。牧野がいいなんて、俺には理解できねぇけどな。まったく、大学の時から周りに俺のモノってアピールして、虫除けして、真面目で清廉な牧野の出来上がりなのに、そこ持ってかれていいのかよ」
いいわけがない。けど、俺は俺で牧野のことを考えているつもりだ。
そんなのわざわざ言うことでもないから、また黙る。

「おい!」
「分かってるよ!だけど、牧野は司とのことで色々あったんだから、そういうの解決してからなんだよ」
強く言われるから、俺もついつい強い口調で言い返してしまう。

「その気持ち、多少は分かるぜ。だけど、女は出産もあるし、ましてや仕事を続けるなら考えなきゃなんねぇこと一杯なんだ。うだうだしてる男を待ってる暇はねぇんだよ」
言われてみて、結婚とかましてや出産なんて気にしてなかったことに気づく。この歳で結婚を考えてないなんて、無責任なんだろう。ただ、俺の家が原因で付き合えないとか別れるとか、そんなことはないように状況を整えていく、それだけ考えてた。でも結果的にそれが将来を考えるということなんじゃないか。結婚なんて意識してなかったけれど、この先牧野以外に自分から結婚まで考える相手なんているとは思えない。
いや、でもいきなり結婚なんて、とまた考えを飛ばしてたら、総二郎は言いたいことを続ける。

「相手は、格好いい友人なんて気にしないみたいだぞ。ゆ、う、じ、ん、なんてな。お前、京都の牧野の職場まで行ったらしいな」
「行った訳じゃない。待ち合わせより早く着いたから、近くで待ってただけだ」
そう、ただわざと早く行ったけど。でも、職場も建物も行ったりなんかしてない。
「それを行ったって言うんだよ。だけど、そんなお前のこと『どういう関係か』って聞かれれば、牧野は当然ただの友達って言うわな。それで、特定の人がいないなら会ってみてくださいって言われたらしいぞ」
学生の頃と違って、牽制するのも簡単にはいかなくて、面倒だ。

「牧野、俺から見ても綺麗になったぞ。お前、本気ならなんとかしろ」
「知ってるし、分かってる」
一気にグラスの中身を空けると、強めの酒が胸を焼いた。


 
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