pierce my heart/fin (spring story2022)

pierce my heart 32 rui side

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「急に時間をいただいて、申し訳ありません」
昼休みの社長室。日本にいるこのタイミングで話さないと、いつまた戻れるか分からない。プライベートな話を社内でするのは違和感があるけど、牧野の見合いまでさほど時間が無いから仕方がない。

「なんだ、珍しい」
「仕事の話じゃありませんが、よろしいですか」
「ああ」
こちらを見ながらも、書類を整理している社長。こんなところでこんな話をするのは初めてだ。

「俺が、この先結婚といった話になったときは、好きにしていいんですか」
「好きに、とは?」
「家とか会社とか考えずに、好きな相手と好きなようにするということです」
そこで書類の手を止めると、こちらを
凝視して無言の社長、つまり父。

黙っているから、もう一度聞く。沈黙には強い方なのに、今日は早く答えが欲しかった。
「相手の家柄とか、どこかとの繋がりとか、考えている相手があるんですか」
「そうだな、そういう繋がりがある相手が好ましいな」
ふと洩れる息。溜息ではないけれど、やはりそうなのかと思えば分かってはいても気は滅入る。
けれど『好ましい』とは?それがいいけど、絶対の条件ではないのか?

「そういう相手でなければ、花沢として受け入れられないということですかね」
「そうだと言ったら、お前はどうするんだ」
試すような、はっきりとしない言い方に段々と苛々してくる。もうある程度の覚悟は出来てる。
「俺が、家を出ないといけないのか、と」
少し強い口調で答える。花沢家として受け入れられないならば、俺がそこから出てしまえばいい。それならあとは牧野のことだけ考えればいい。牧野が一緒にいてくれるなら、それだけでいい。

なのに返ってきた声は笑いを含んでて
「じゃあ聞く必要ないだろう」
と。
『何だよ、答えになってないだろう』と更に苛ついているのに、父は分かっているのかどうか。

「お前の考えは大体分かる。仕事で成果をあげていることも聞いている。牧野さんのこともな。彼女ののため、だろう」
今度こそ怒りを覚える。
「そんなこと、調べてたんですね……」
そうして勝手に調べて勝手に判断して勝手に決めているのか。カッとして一瞬止まっているところで
「お前の周りの友人についてと同じ程度に調べた。ウチもそれなりの家だ。良からぬことを考えて近づく奴もいる。そこを調べただけだ」
冷静な声色で言われる。
「私は、花沢も花沢物産もお前が継ぐのが一番だとは思っている。だが、血統で後継者を決める時代でもないだろう。ましてや結婚まで使わないと続かない企業など、いずれ立ち行かなくなる。結婚も恋愛も、好きにすればいい。その上で、後継者にふさわしくなければ、他を考えればいい」
至極真面目な眼差しと声に、言葉が出なかった。企業のトップとしての判断だったから。

すると今度は柔らかな声で
「それに………お前は知らないみたいだな、牧野さん、かなり優秀だ。弁護士として我が社に来てくれればありがたいな。けれど、そんなこと言う前に、彼女はお前を選んでくれたのか?」
痛いところを突く。

嫌な顔の俺に気づいたのだろう。
「話は終わりか?そろそろ仕事に戻ったらどうだ」
「失礼します」
父親に感謝の気持ちを感じたのは初めてかもしれなかった。ただ、きまりが悪くてありがとうございますとは言えず、ただ頭を下げて扉を閉めた。

ただ、牧野に会いたかった。今、すぐにも。


 
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