Put the devil into hell(soujiro’sBD2022)

Put the devil in to hell 8

0
それは、少し遅い時間になったバイト帰りに、牧野を送っていく時だった。
「そういや、この間の服取りに、俺の部屋寄れよ」
「あれ?いいよ。昼、着られないし」
「着ればいいんじゃね。似合ってるぜ。ああいうのも、いいだろ別に」
出来る訳ないでしょ、って顔で見られるが、どうしてそんなに自分で自分を縛ってるのかが、分からねえ。
「とにかく取りに寄ろうぜ。そんなにかかんねぇだろ」
それ以上何も言わなかったから、俺は車を自分の部屋へと向かわせた。



「お前、何であんな風にしてんだ」
ボンヤリと窓の外を眺めてるから、つい聞いちまう。ウチに来るようになって、こうして二人になることも多くなった。そういうとき、俺には気づかう必要なんかないと思っているのか、意外と牧野は口数が少ない。というか、そういう気づかいのない沈黙が、心地良かった。

だから、その問いも、ふと出てきただけで、特に意味はなかった。
すると気の抜けた口調で答えが返ってくる。
「明日のことを考えて、歯食い縛るのに疲れる時もあるよ。今、この時だけ、それだけしか考えたくない時、あるでしょ。西門さんだって」
そこで牧野は俺を見る。俺は運転しているから、チラリとだけ隣を見る。
「だから夜遊びしてるんでしょ。今は私も分かるよ。時期家元、なんて、大変だよね。生まれたときから、すっごい家の息子で、プレッシャーもずっとだろうしさ、息抜きしたいでしょ。西門さんとは、レベルが違うけど、私だってあるんだよね、そういうこと」
ごくごく自然に出てきた言葉のようで、ふと笑うその顔は、憂いているような疲れてるような、でも心からのもので、胸が苦しくなった。こういうところ、仲間内では余り見せねぇ。
これがコイツのいうところの『清廉潔白』イメージのせいなのかもしれねえな。大河原あたりが『つくしらしくないっ』とか言いそうだよな。
「好きにすればいいじゃねぇか。お前が周りに応える義務なんてねえんだし」
「うん………そうだね」
その声色からは、そう思っているようには感じられねえ。

「類はさ、」
『類』の名前に、牧野はピクリ目元を動かす。
「お前のそういうトコも受け入れるんじゃねぇの」
「そう…かな」
視線を逸らして、何かを考えるようにしてから、もう一度口を開く。
「類のこと、凄く好きになれたらいいのかもね」
「………無理なのかよ」
牧野と類は分かり合ってて、牧野が辛いときにはいつも類がいた気がする。司と別れた後、類と付きあうのが自然な流れかと思ってたけど、もしかしたら、そういう無言の雰囲気ってやつも、コイツには重かったのかもしれねえ、と思った。
「何だろ、真っ直ぐでさ、苦しいんだよね。何でか分かんないんだけど」
外を見ながら、ふと笑うそれは、やっぱりあの夜と同じだ。
きっと俺しか知らない、牧野の顔、飾らない顔。

「いい意味で期待されてるとさ、そんなの無理って言いにくくない?西門さんなら、分かるんじゃない?」
そして、分かるでしょっていう合図のような、そんな瞳でこちらを見る。
そこで、締まる胸とともに俺は自覚する。

『少しじゃねえ』

少しなんかじゃねえ。もっと………もっともっと、俺は見たい。
どの牧野も変わりなんかなくて、どれも牧野で、そしてそのどれをも俺は見たい。苦しいくらいに、もっともっと、奥の奥の、心の奥まで。


 
関連記事
スポンサーサイト



Comments 0

There are no comments yet.