暁を越えて (autumn 2022)

暁を越えて 14 rui side

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それは突然の訪問だった。
「花沢課長、おいででしょうか」
丁寧な口調のキッチリした感じの男と、その後ろには大柄の見知った奴。会うのは久しぶりだ。

ウチの社員が答える前に、俺と目が合って、ニヤリと笑うから、黙って立ち上がり、二人の方へと歩み寄る。
「……道明寺専務、こちらへどうぞ」


「お前から、そんな常識的な言葉が出るなんてなぁ」
打ち合わせルームのひとつに案内するべく、先を歩く俺の後ろから言われる。
「いち課長に何のご用でしょうか」
「やめろよ、類」
テーブルに座りながら口角だけをあげて、司は言う。
「司……ビジネスじゃないの?それに来るなら連絡ぐらい出来るだろ」
「ビジネスなら、俺が来るわけねえだろ」
そりゃそうだ。専務と課長の間でビジネスの話なんてするはずがない。立場が違いすぎる。

司へとコーヒーが出されてから、俺は言った。
「で?ぶっ飛ばしに来たとか?」
「本当に、マジそうしようかと思ったけどなぁ、あきらから聞いたぜ、ちょっとは落ち着いたって。ホント、お前の方がガキだよな。落ち着かねぇで、放蕩して、いまだ課長かよ」
「別に、仕事なんて食えればいいし」
「お前らしいっつーか………俺にはそんなのどうでもいいが、牧野にあんな顔をさせたら、次はねえかんな」
口元は笑ってるけど、目はこちらを見据えるようで、だから素直に分かったと言うのがムカついて、自分が悪いのはよく分かってるのに……
「お前に言われる筋合いないだろ」


「まったく……牧野はこんなガキのどこがいいのかねえ。よくわかんねえ。ホント……ぶっ飛ばしてやろうか?」
溜息とともに言われて、心の中では確かにと思う。だけど、手放せない、牧野だけは。どんなにガキでも、何でもいいんだ、そばにいられれば。

「言われなくても、ちゃんとするよ、今度こそ」
今度は俺が見据えるようにして言えば、また強く見つめ返されて、つい息を詰めて反応を待ってしまう。



「そうか」
それなのに、返ってきたのはひと言だけ。
「それだけ?」
「あぁ、それだけだ」

司は立ち上がるともう一度だけこちらを向いて言った。
「あいつは俺にとっても特別なんだ。多分…………いつまでも。だから……頼むな」
その声は真摯で、それにこちらへ向けた表情は幼馴染みのそれだったから、今度は俺も素直に言えた。
「ごめん」
何に対しての謝罪か、司にするようなことじゃないけれど、何故か自然と言葉が口を突いた。

それに対する司の苦笑は、昔よりもずっと優しいもので、
「じゃあな」
と出て行った。
やっぱり司のことはずっと意識してしまう。いつまでも。
でも、それでいい。いつまでも、気を抜くなってことなんだろう。


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