寝たふりしてる間に (New Year’s Day 2023)

寝たふりしてる間に 10

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話していた、出張翌週の週末、約束通り買い物へと出かけた。もう慣れてきた助手席。
外のランチは混んでるから、遅めのブランチのあとだった。

「最近、朝出かけるの早くない?朝の仕事があるの?」
運転の合間に、こちらを横目で見て聞かれる。
「あのね、この間から大変なの!同期と買い物に行くとき、類に送ってもらったでしょ?」
走り出したから、類は口だけで、うん、と答えた。
「その時、この車から降りるところ、見られてたみたいで、あれは誰なのとか、彼氏じゃないなら紹介しろ、とか、色々言われてて……」

ホント大変なんだ。大学の時と違って、類たちのことで色々言われることが無くなってたから、気を抜いてたんだよね。一緒にいた同期以外にも伝わってて、類なんて芸能人ばりに格好いいって、本当に芸能人なんだとか、噂が一人歩きしてる。美作さんと知り合いだってバレてないから、まだいいけど、それすらバレたら大変なことになる。

「彼氏ですって言っとけよ」
「いやいや、そんなこと言えないよ。突っ込んで聞かれたら、嘘なんてつき通せない」
「一緒に住んでるから、あとは察しろって」
「いやいやイヤイヤ…無いから!とにかく、残業してる時に、色々お喋りに付き合わされて、仕事が進まないのも嫌だから、みんなの出勤前の、朝に仕事して、早く帰るようにしてるの。それとも、紹介させてくれる?」
「牧野の彼氏として?」
「んな訳ないって。類と付き合いたい同期の女性社員を紹介するってこと」
「無い」

即答、というより、かぶせ気味での答え。
「……だよね」
知らない奴と話したくない、なんて類は、女性の紹介を嫌がるに決まってるし、会わせたら会わせたで、面倒くさくなって、『彼氏ですけど何か(ツーン)』みたいなこと、言い出しかねない。やっぱり紹介とか無理。

「だ、か、ら、紹介して攻撃がおさまるまでは、早めに出社するの。……それより、服買うんだっけ?」
「あぁ、それは解決した。牧野は?この間、ブツブツ言ってただろ」
「クッションね。大きくて、ふかっとしたヤツ」
会社で、凄くいいって話になって、手が届かない値段じゃないから、お店で試そうと思ってた。凄く気持ち良くて、すぐ眠くなっちゃう、なんて持ってる人は言ってたけど、本当なのか?まず実物を見たい。

「良かったら買おうかなって思ってるんだけど、リビングに置いていい?類もテレビみるとき、いいと思うよ」
「うん」
信号待ちのところで、こちらを見て目だけで笑う。

類…凄くモテるよね……そう遠くない日に、こういう表情で、きっと凄く育ちのいい誰かに笑いかけるんだろう。
「なんか……な」
何となく嫌なのは、今が居心地のいい関係だからなのかな。仲のいい友達、恋愛では無いから、その苦しさも無い。友達以上の心地いいところだけの関係、このままで…
「十分なんだけどな。無理かな」
無理だろうな、その気になれば彼女なんて、すぐに……
「何が無理?」
あぁ……口からまた洩れてたみたい。
「仕事のこと、考えてた。ゴメンゴメン」
類は、今度はしっかりと笑ってた。




お店で類と一緒に試してみれば、私以上に気に入って、一番大きなクッションを類が、私は一回り小さなものを買って帰ってきた。彼はすぐに袋から出して、その感触を確かめてる。
「気持ちいい。プニプニしてる」
「だよね。いいね、これ」
リビングの床で、大きなクッションに上半身を預けて、ユラユラと揺れるところ、小さい子供みたい。
私は隣で腰から沈み込んでみる。座り心地は、やっぱりいい。

「この感触、同じじゃないか」
類は、伸ばした指先で私の頬を摘まむ。
「あ、そうそう、同じ」
そうしてケラケラと笑うところ、好きだけど…
「失礼な!どうせプックリしてますよ」
「いいじゃん。あ、ここも同じだろ、ほら」
今度は二の腕の下を、やっぱり摘ままれる。

「私だって、一応女なんですけど!そんな簡単に触らないでよ」
「女ってか、牧野だし、いいだろ。ほら、気持ちいいな。触ってみな」
「いいから!自分でなんて触りたくないよ」
そうしてまたケラケラ笑う。ツボにはまったみたいで、最後はお腹を押さえながら、ちょっと苦しそうにさえしてる。


「あは、笑い疲れた。暑い。なんか飲も。牧野もビール飲む?」
「もう!いらない!!」
ホント失礼!類は私のパンチを避けて、キッチンへ行ってしまった。


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