寝たふりしてる間に (New Year’s Day 2023)

寝たふりしてる間に 11

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「何してんの?」
「あっ!び、びっくりさせないでよ!」
洗面所で前髪を切ってた時、不意に後ろから声をかけられて、ビクッとなる。もう少しで切りすぎるとこだった……

「急に声、かけないでよ!」
「ドア、開けっ放しだったから…髪切ってんのか」
肩をすくめるようにして類は言った。
私一人で夕飯を食べた後、9時前ぐらい。類はこのぐらいの時間に帰れれば、早い方だ。

「うん、前髪は邪魔だけど、他はまだ切るほどではないし、自分で切って節約しようと思ってさ」
1回何千円もするカット代、出来るだけ行く回数を減らしたい。前髪だけ短くなれば十分。

「でも……既に、端、おかしなことになってる」
口角をあげて、さっき切ったところを指差される。
「う、うっさい。これから、そう、これから揃えるの。まずは少し短めにしてって考えてたの!」
「でも……やっぱココおかしくない?」
確かに、短くなっちゃって、う……ん、どうしよう……

「切ってやろうか?」
「え……」
「高校の時、切ってやっただろ。俺、上手いよ」
……確かに。あの時はカッターだったけど、器用に切ってくれた気がする。

類、指先器用なんだよね。ここは…
「お願い…します」
「じゃあ着替えて来るから、タオルかなんか肩の辺りにかけて、待ってて」
上目遣いでお願いした私に、そう言った類は、スーツから着替えるために部屋へ行った。



「どのくらいにしたいの?」
「眉が隠れるくらいで、お願いします」
バスルームで、タオルを首回りにかけて、
「ん。下向いて、ちょっと目、伏せてて」
前髪に触れる指も、梳かす櫛も心地いい。昔ママに切ってもらった時より、優しい感触。

類は手を止めずに、話しかけてくる。
「そんなに節約必要?」
「だって……もったいないから」
「牧野って、ナチュラルに環境保護活動家だな」
「?」
「食材は無駄にしないし、服とかも慎ましいよな。雑巾とか買わないで作ってるし、ライトとか小まめに消してる……時代が牧野についてきたな」

それは笑いを含んだ声だから、
「全然、褒められてる気がしないんですけど」
言えば、今度こそクスクスと笑われて、やっぱりからかってるだけなんだよね。
「違うよ、ホント、感心してる、ホントに」
ムッとした私に言うけど、絶対違う。でも、今動いたら、前髪が大変なことになるから、ジト目で見るぐらいしか出来ない。


「ほら、もう出来たよ、見て」
「いい感じ。ありがと。類、凄く器用だよね。次もお願いします」
「うん。じゃあ、目閉じて。髪、払うから」
美容院でよくされる、タオルでパッパッかと思って目を閉じる。

なのに、感じるのはフッとかかる息
「ちょっと……」
ビックリして反射的に目を開ける。

「何?ほら、まだ髪残ってる。目に入るだろ?」
どアップの顔とまた感じる吐息に、類の胸を少し押した。
「だ、大丈夫。顔、洗うし。片付けておくから、ほら、リビングで、お酒でも飲んで、ゆっくりして!」
「そ?じゃ」
類は、何でもない風にリビングへと行き、私は急いで顔を洗った。


 
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