好きなのはあなた (Valentine’s Day 2024)

好きなのはあなた 1

0
それは土曜日の夜だった。
夕食の後、こまごまと家事をこなす牧野を見ながら、入浴も終えてソファでくつろいでいる間に寝てしまったらしい。
我ながら、寝ることはいくらでも出来る。牧野の動き回る温かな音も眠りを誘うんだよな。

覚醒し始めのボンヤリとした頭。牧野はいつの間にか隣に居て、ソファ下のラグにペタンと座って何かを見ている。そして、その視線の先にはパソコン。
またか?と思いながらも気にはなる。悟られない程度に薄めを開けて確認した。

またかというのは、牧野が少し前からハマってる奴らを見てるに決まってるからだ。
いつも奴らの映像ばかりを見てて、そのパフォーマンスが好きだとか言ってる。
最近は雑誌類も買っているようで、密かにその在りかは把握している。コソコソと隠しているけど、怪しい動きで全部分かっちゃうんだよな。

それでも、今までは主に俺が不在の時に鑑賞していた。だけど今日は、リビングで、俺が寝ているとはいえ、隣で画面を見てる。
いつ俺が起きるかも分からないのに!リビングで!俺の隣で!

今まで俺との関係に悪影響もなかったから、それほど気にしてなかった。
だけど、これはさすがに……とうとう、ここまでするほど好きなのか?ちょっとどうかと思う。
芸能人だし、いちいち嫉妬とか心配とかそんなことはないけど、なんかザワザワする。

更にハッキリしていく頭で、しっかり目を開けて声をかけるかどうか迷っていると、牧野のつぶやきが洩れてきた。
「あぁ……もう……格好いいけど……また、騒がれちゃうよ……そんなに露出しなくていいのに…」
ボソリとしたつぶやきは…ひとり言で、だからこそ本音なんだと思うと、なんというか、モヤモヤした気持ちになる。

「いや、こういうマーケティング、必要なんだろうし、ね、私も見たいし……とりあえず、保存、保存っと」
その映像は牧野のアーカイブ入りしたらしい。パチパチと操作音がして、容量一杯のフォルダをいじって、やっと保存出来たっぽい。
前にチラリと覗いたら、大量の画像や映像があった。そんなたくさん見ることもないだろうし、昔のなんて存在すら忘れるだろうと聞いたら、不意に思い出して見たくなるらしい。
分っかんね。ホント、分っかんね!

「カッコよすぎ。もう………釣り合わないよね、私なんてさ」
釣り合うって何だよ!俺は心の中でツッコミを入れる。
相手はテレビの向こうの奴だろ。釣り合うもなにも、会えやしないから。

「あっ、そんなところでネクタイ緩めないでってば!周りの目が溶けてるよぉ。そんな仕草で色気洩らして……」
だから!見られるのが仕事だし、お前もその一人だろうが……なんて思うのは大人げないだろうか。

「あっ、そんなとこ映さなくていいのに!その笑顔、貴重だけどさ、その表情……格好よくて、死ぬ………はぁ、好き」
最後の溜息みたいな「はぁ、好き」って何だよ!
てか、牧野は照れ屋で、そんな感情込めて「好き」なんて言わないくせに、なんだ、その溜めて溜めて溢れたみたいな「好き」は!

あぁ………もう一回寝る。そう思って、俺は寝返りをうった。


関連記事
スポンサーサイト



Comments 0

There are no comments yet.