ss 牧野×類

これからもよろしく 1 (White Day 2024)

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「お疲れ様」
俺のジャケットに、いつも通り手をかけようとして、我が愛妻が言う。
その手を、やんわりと止める。さっきまで二人で出かけていたし、朝からバタバタと息子の支度に忙しそうで、彼女も疲れているだろう。

今日は次男の卒業式。

「お前こそ、お疲れ様」
「私は、仕事が忙しい訳じゃないしね。でも、類は仕事休むの大変だったでしょ」
「そういう意味じゃなくて」
「?」
分からない、というようにポワンと見つめられる。

「これで子育て、ひと段落、だろ?だから、お疲れ様。いつもありがと」
「うん、そうなのかな?……でも、まだまだ手がかかるよ」
同じ男だからだろうか、息子には俺の方が少し厳しくなってしまうのか。もうさして手がかかる歳じゃないだろうと思ってしまう。
俺があの歳の頃は、既に親の言うことなんて必要としてなかったし、言われても聞いちゃいなかった。
それとも、早く俺を一番に考えて欲しい、なんていう妻への心理なのかも。

「昨日、色々整理してたらさ、これ、出てきた」
俺の手には、かつて彼女が息子と一緒に作ったお願い聞きます券。息子が字の練習を始めた頃だ。

「懐かしい!お願い聞く券。作ったね、昔」
「アイツらと一緒に誕生日に作ってくれたよな」
「うん、あったね、そんなこと」
小さくて幼かった息子たちを思い出すと、今日の卒業式で見た姿と比べて、感慨深い気持ちになる。
子供が生まれた時も、俺が父親なんてと思ったけど、息子たちはしっかりと成長してくれている。……なんて思うのは、親馬鹿だろうか。

「あの頃、字も上手くかけなかったのに、あんなに大きくなって…俺たち歳とるはずだよな」
息子は特に父親似なのか、既に身長も俺と変わらない。

「類が言うと、ちょっと嫌味……全然変わらないよね、昔と。歳とったって、体型もそのまんまだし肌だってツヤツヤだしさ」
「そう?つくしこそ変わらないよね、頬の触り心地も。何なら昔より柔らかくて気持ちいい」
緩く腕を回して、頬をつつく。ぷくりとした顔は可愛くて、あどけない。

「太ったって言うんでしょ」
「違うって。この辺とか、いい意味で成長したよな、高校生の時より」
目の前の、胸の膨らみにそっと手をあてても、軽くいなされるだけで、慌てて外されたり怒られたりはしない。
「触ってないでしょ、高校生の時は」
「そうだよな、俺は触れなかったな」
少しだけ昔の切ない気持ちをのせてみる。

仕方がない人、という風に薄い笑みを返されるけど、そこに心配や不安はない。
二人で積み上げた日々よりも、更に昔の思い出を懐かしむように言っているだけなのは、彼女も分かっている。それだけの絆が、俺たちにはある。

「でも、今は俺の、だろ?」
「うん」
余裕で言う俺に、また仕方のない人って視線が向けられる。
柔らかなその顔が好きだ。昔より、ずっと深く。
自然に頬に手を触れて、見入ってしまう。黒目の強い瞳。何年経っても好きだ。
それでも、昔はこんなことをしただけで紅くなってた。重ねた日々は大切だけど、こんな時は、少しだけ寂しい。……いや、なくした反応よりも得たものの方がずっと大きいけど。

それでも、やっぱり照れる彼女が見たくて、ひと言添える。
「これ、使いたいんだけど、今夜」
「?何に?」
「ナニに」
途端に紅くなる頬と更に大きく見開かれる目は、昔と変わらない。

「そういう為に作ったんじゃないよ!類って、意外とヤらしいんだから…」
実際よりも若く見られてた彼女も、年を経て若々しいといい意味で言われる。
花沢関係の付き合いで出かけることも多く、装いもメイクも身について、一層俺を安心させてくれない。よく分からない男に道を聞かれることもたびたびあるらしい。それが男の下心であること、本人は全然気付いていない。

「幾つになってもソウイウの赤くなって。何度もシてるのに」
「だって、何度したって慣れないよ」
上目遣いで頬を染めて、そんな顔も男を煽るって分かってるのかな。俺は既にシッカリその気なんだけど。

ネクタイを外しシャツのボタンを外しながら、片腕に力を入れて少し強く抱き締めた。
「でも、触っても怒られなくはなったよな」
「そっ、そりゃあ、結婚してるし」
「それなのに、いまだに溺れてるしな、つくしに」
本当に、いつまでも溺れてるし、溺れていたい。

視線を合わせたまま唇を寄せると、彼女の目蓋はそっと伏せられる。
すぐ、応えるように、合わせた彼女の唇が開く。
何度も何度も、重ねた日々よりも多いキスで、そんな自然な反応が、また俺を誘う。

キスの合間に見上げる瞳からは高揚が伝わってくる。それに、俺の昂ぶりも触れたモノから伝わってるだろう。
「この券、本当に使いたい……お願い、聞いてくれる?」
キスの合間に聞くと、吐息のようなささやかな声が、目の前の濡れた唇から洩れる。
「何だって、きくよ?」
濡れた夜の声とともに華奢な手が、俺のシャツの中へと伸びる。こうして素直に応えてくれるところは、やっぱり歳をとったと思うけど、それはいい意味でだ。お互いの思いも欲望も理解も、昔よりずっと深くて強い。それはきっと二人とも同じ。

「このまま、いいだろ?すぐ、欲しいんだ」
「うん、私も……」
その声だけで、躰の熱が更に上がる。震えるくらいに欲しくなる。

部屋の鍵へチラリと視線を送って確認してから、抱き締めた躰をベットへと押し倒す。
素肌に触れる彼女の手が気持ちよくて、後はただ思いに身を任せた。


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