ss 牧野×類

今日の終わりに (April fool 2024)

1
珍しく自然に目が覚めた朝。
最初にするのはテレビのスイッチを押すこと。

「今日はエイプリルフールですね」
画面の中の男が言った。
エイプリルフールなんて、最近見なくなった。一時期流行った気がしたけど、どちらかというとイースターの方が4月のメイン行事じゃないだろうか。

そう思っても、ふとイタズラみたいなことを思いついて、折角ならこの機会に試してみたいな、と薄く笑ってしまう。
時計は8:00を過ぎたところ。俺がこの時間に起きることなんて、ほぼほぼないけど、あいつはきっと起きてるはず。貧乏性の働き者。

「今日会いたい」
メッセージを送れば
「19時くらいなら。どこで?」
とすぐに返信が入る。
「ウチ、来てよ。夕食は何か用意しとく」
「ありがと。後でね」
長い付き合いのせいか、こういうことを素直に受け入れてくれるようになった。
ひとり暮らしを始めた俺は、理由をつけては牧野をウチに呼んでいる。でも、いつもご馳走になるのは悪いとデザートを用意してくれるから、今日もきっとそうだろう。
そんなことを考えると、夕食が楽しみになって、俺は上機嫌でバスルームへ入った。





「どうしたの、急に?あ、これ、デザート。フルーツポンチ、瓶詰めなの。可愛いでしょ」
「サンキュ、後で食べよ。夕食、適当に配達してもらってる」
夜7時。予想通り、お土産だといってカラフルな瓶詰めフルーツポンチをニコニコと手渡してくれる。

夕飯は軽いイタリアン。ウチの近くのリストランテに一緒に行ったとき、トマトクリームのパスタが美味しいって言ってたヤツ。今日はラタトゥイユも一緒に頼んでおいた。

パクパク食べて、モグモグ口を動かして、ペラペラと話す様子は見ていて飽きない。
やっぱり一緒に居たいのはこいつだけなんだよな。



「で、何か用事だったの?」
テーブルからソファに移動して、デザートも半分以上食べ終えた牧野は、リラックスして腹の辺りを擦りながらニコリと言った。

「俺、牧野のこと好きなんだ、凄く。だからさ、付き合って、一緒に住んで、結婚しない?」

口に入れようとしてたスプーンを持ったまま、口も目も大きく開いて動きを止めた彼女。
数秒も経っていないと思うけど、俺にとっては長い間が空いた。

やっぱり好きなのは俺だけで、どれだけ距離が近づいても友達としてしか見てもらえないのだろうか。分かってはいたけれど、少し苦しい。
でも、そんな気持ちが伝わってしまえば、牧野は切きっと俺との距離を取ろうとするはず。

だから…
今日だから言える言葉
『エイプリルフールだよ。本気にすんな』
を口にしようとした。
その時



「う……ん。あ!け、結婚なんて、そんなすぐ考えられないけど!!」
と、顔を紅く染めて、小首を傾げて見つめられるから、今度は俺が動けない。

これは本当のyesなのか?口調はそう受け取れる。でも、これまで、ずっと変わらない態度で、友達で……そんなこれまでの関係が俺を疑り深くさせて、
色んなことが頭を過る。
そうして今度は俺がフリーズ。



「類?」
キョトンと見上げる目と、呼ばれた名前で我に返る。

言われた言葉の意味を確認したくて、俺は聞いた。
「エイプリルフールだから…だから嘘のOK、とか?」


「え……類のは、嘘なの?……」
傷ついたような牧野を見て、慌てて否定した。
「違う。冗談でしょって言われるかと思ってたから。そしたら4月1日のせいにしようって……でも」
隣の少し低い頭を引き寄せて、髪にキス。


「明日まで一緒にいてよ。エイプリルフール、終わったときに、もう一度聞きたい。俺も、もう一度伝えるから」
触れた髪が、コクンと動いて
「うん」
と溜息のような声が落ちる。


今日の終わりに、もう一度。
今度は言葉と吐息と俺のすべてで伝えるから、同じく言葉と吐息と君のすべてで応えて欲しい。


fin


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Comments 1

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you330

you330

Re: **粉さん

コメントありがとうございます。楽しんでいただけで良かったです。
私の妄想はほんわか寄りではなくて、ちょっと後ろめたいというか何というか……
でも、王道類も好きなんですよ!妄想がそっち方面に向かないだけで。
またup頑張っていきたいと思います。

  • 2024/04/03 (Wed) 20:43
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