あなたが寝てる間に (spring 2023)

あなたが寝てる間に 28

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「類の冷蔵庫見てきたけど、なんにも無かったよ。どんな生活してるの?」
荷物を取りに行った牧野の部屋で、冷蔵庫を整理しながら彼女は言った。

牧野が居ない部屋なんて寝るだけだし、食事もとらなければ洗濯だって誰かが適当にやってるぐらいの認識しかない。冷蔵庫も今や飲み物ぐらいにしか使ってない。

「牧野が居ないとどうでもいいから」
なんて俺に
「もう…」
とか言いながら、牧野はちょっと嬉しそうなんだ。そして、そういう様子に俺も嬉しくなる。

でも、今大事なのはそこじゃない。
「下着類、ちゃんと持っていきな。足りなくならないように、な」
‘足りなくなる’の意味が分からない様子の牧野の耳元で、ささやく。
「毎晩スルから、足りなくならないように」

途端に顔を染めて大声が響く。
「そんなことっ!そんな、しないし!ダメだし!」

「離さないから、大丈夫」
この後のために下着類は持っていって欲しいだけだけど、口にした言葉も嘘じゃないつもり。

「なっ……!」
「いいから、ほら。早く、出しな。そんな小さな引き出しひとつ分なんて、全部持っていくよ」
この部屋に帰ることなんて、もうないんだから、と思いながら言った。
すると牧野は渋々引き出しの中身をバッグに入れる。




「よし、終わったな。俺、腹減った」
「だから何か作るって言ったのに」
いや、本当は食事なんてどうでもいいのはいつもと同じだし、下着だけ持っていけば後は大して必要ない。だってこの後ウチに強制引っ越しさせる。その時に見られてマズいものなんて下着ぐらいだろうから、それだけ回収すれば後は業者にやらせるだけだ。

そんなこと、牧野に言えばゴチャゴチャうるさいから、当然勝手に進めるつもり。
けど、結局最後は俺のこと受け入れてくれるんだよな、牧野は。
ニヤけそうな顔を引き締めた。

「ほら、今度は食事!牧野、早くして」
「わがままなんだから、もう!」
そこで加えて畳みかける。
「あの部屋の鍵、俺に預けといて」
「何で?」
「音の問題、業者にウチの弁護士から言ってもらうから」
「そんなの悪いし、ゴールデンウイークだからお休みでしょ」
「不動産営業なんて、世間の休日は営業してるだろ。普段だって週の真ん中辺りが定休日だし、小売店と同じ」
「あ、そっか。そうかも。私も休みの日に案内してもらった」
「だろ?」
簡単に丸め込まれる牧野はチョロ……いや、素直だ。
加えて、鍵を渡す時には「お願いします」なんて言ってて、ちょっとだけ罪悪感。
ま、それでも、やることは変わらないんだけどさ。





次の日は近くのスーパーに買い物。ゴールデンウイークは外食でいいのに、不経済だと鼻息荒い牧野に連れられてくると、この店は高いとブツブツ言いながらカゴに野菜とか肉を入れていく。
その隣で、またニヤけそうになる顔を抑えるのに、俺は必死だった。
だって、今頃は牧野の知らないところで、彼女の部屋から荷物は移動されている。

音のこと、ウチの弁護士から不動産に言ってやると鍵を預かったけど、そんな気はない。
預かった鍵は荷物の移動のためで、牧野が知らない間に荷物はまとめられて、俺の部屋だ。


「なんか類、機嫌良くない?」
「だって牧野のご飯、楽しみ」
上機嫌の理由を誤魔化そうとした言葉で、エヘヘなんて照れる牧野にまた罪悪感を感じるけど、牧野が帰ってくるためには、その程度のこと気にしている場合じゃない。

それに、多少怒ったとしても、強引に進めてしまえば牧野は受け入れちゃうんだ。
そんなことを考えて牧野を見ると、照れながら俺の持つ買い物カゴに卵を入れるところだった。


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